今年2月に雑誌のコラム執筆のために取材したランカウイ島の記事を掲載します:
5億5千万年前に遡る太古の地層や内陸部の熱帯雨林と並んでこの島を特徴づけているのが、沿岸部に分布する豊かなマングローブ林だ。植林体験やボートツアーに参加すれば旅行者も楽しく環境や生態系を学ぶことができる。マングローブとは淡水と海水の交わる汽水域に分布する植物群の総称で、一般的な植物と比べてはるかに多くの炭素を吸収することができ、浅瀬に張り巡らせた根は天然の防波堤の機能も果たしている。その周りにはカニやハゼなどの水辺の生き物とそれらを捕食するカニクイザルやワシなどの野生動物が集まり、島民にとっては漁場でもあり良質な木炭供給源でもあった(注:現在はマングローブの伐採は禁じられている)。
こうした貴重なマングローブを守るため、マレーシアでは国を挙げて「100万本植林プロジェクト」と銘打ったマングローブ再生活動が進められているが、とりわけランカウイ島は地域レベルのユニークな政策に注目が集まっている。まず、2021年に第一フェーズとして「1ツーリスト・1ツリー(1T1T)」プロジェクトをスタート。これは協賛ホテルの宿泊客にマングローブ植林体験を提供するもので、主導するランカウイ開発公社(LADA)のアズミル博士は、「宿泊客が植林したマングローブの成長を確かめるために、いつの日か島を再訪してほしい」とプロジェクトに込められた願いを語ってくれた。次いで2023年には、地元の学生を対象とした「1スチューデント・1ツリー(1S1T)」、そして今年は地域コミュニティ全体を巻き込んだ「1シチズン・1ツリー(1C1C)」へと発展させる予定だ。
ランカウイ島がこれほど熱心にマングローブを守るのには理由がある。「私たちはマングローブを“スーパー・ツリー”と呼んでいます。というのも、2004年末に発生したインド洋大津波で島民や旅行者の命を救ってくれたのがマングローブの存在だったからです」(アズミル博士)。まさにマングローブが防波堤となって津波の直撃を遅らせ、その間に人々が退避することができたため、島内の被害は最小限に留まり早期の復旧を可能にしたという。現在、ランカウイ島では全ての学校にジオパーク・コーナーを設置し、子どもたちにマングローブをはじめとした生態系の大切さを伝える環境を整備している。未曾有の災害から20年が経過し、当時を知らない世代も増える中で、いかに次世代へ継承してゆくか。ランカウイ島のマングローブ再生活動は大きな使命を担っている。
(取材・文:永田聡子)
